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廊下の思い出

 廃屋に入った師匠は真直ぐに延びる廊下が気に入り、この修復に価値を見出したらしい。
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 私にとってはこの廊下は夏休みの思い出の場所。私と兄は毎年夏休みは1ヶ月間熊野の祖父母の家に預けられた。東京育ちの私たちには熊野での生活は冒険の連続。
 
 祖父は無口な明治の男だった。ちょび髭に丸眼鏡。ふんどしでお尻には大きなこぶがあった。そして孫達の前で全く恥ずかしがることもなく、お尻をさらした。私は「おじいちゃんは昔の人間だからお尻にはしっぽが生えていたんだ」と信じていた。サルからの進化の過程である。そんな祖父の仕事場はにはきっとオバケも沢山いるに違いない。夏の夜といえばキモ試し。兄と二人で母屋から病院に通じる廊下をドキドキ歩く。その当時でさえ、廊下は歩くときゅんきゅん鳴いた。病院に入るとすぐ左手に標本棚がある。そこには大きなガラス瓶にホルマリン漬けの標本がずらり。曽祖父は産科もやっていたので胎児の標本も。とにかく左上を見ないように腰をかがめてそこを突っ切る。その先にある祖父の耳鼻科診察室には今度はグロテスクな耳の立体模型が。ここは兄の丸まった背中を見ながら駆け抜けた廊下だ。
 
今回の修復の始めにまず締め切った病院の間取りを師匠に説明した。母屋からつながる渡り廊下、その先の標本棚、廊下、祖父の診察室、その位置関係だけは鮮明に記憶していた、はずだったから自信を持って見取り図を描いた。しかし封印を解いて中に入ったら全くのでたらめだった。人の記憶は本当に当てにならない。

 ホルマリン漬けの標本は祖父が亡くなるとすぐに祖母が畑に穴を掘って全部埋めてしまった。昭和50年頃のことである。そして数日後に野良犬が標本を掘り起こし、警察沙汰になった。警察が標本をどう処理したかは誰も知らない。
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壁はペンキを塗り、床は洗剤でモップがけをした廊下には明るい照明が似合う。

by mobiliantichi | 2008-02-06 22:27 | 古民家修復  

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