思い出の甘味 その5: ROZA
この街に来ると、確かめずにはいられない。
まだROZAがあるかどうか。
まだあのロシア風のチョコがあるかどうか。
まだあの双子のシューがあるかどうか。
あった!!
お店は開いているのだけれど、どなたもいない。写真を撮っていると、外から上品な老齢のマダムが戻っていらした。「まあごめんなさい。お待ちになったかしら。ちょっと外が騒がしかったものだから。」さてここで慌てず、この街での会話モードに変身。「今来たところです。懐かしくて、ケーキもチョコレートも。子供の頃よくケーキを友人の家でいただいたんです。学校が近かったもので。この街もずいぶん変わりましたね。」マダム「私でも駅の前の道は知らないお店ばかりになって。うちは全く変わっておりませんのよ。チョコもケーキも昔のままで。お住まいはどちら?現金書留をお送りして、配送もやっておりますよ。夏場ならチョコレートには氷をお入れして。」
高校1年の頃、一番仲の良かった友人はシモーヌと呼ばれていた。学校帰り、ROZAの前を通ってよくシモーヌの家に遊びに行った。学校帰りに寄っていいのは本屋だけだったので、ROZAでシューを買うことはできなかった。でもシモーヌの家に着くと、ちゃんとROZAのケーキが出てきた。当時でもROZAのケーキはクラシカルだった。シモーヌはそこがいい、と言っていた。
もちろんチョコとシューを買って、シューは駅前のベンチで食べてみよう。
85歳位ではないかと思われるマダムは何度もレジと格闘して、20円おまけしてくれた。そして、シューを食べてみる。きっとマダムのご主人はさらに年上の方にちがいない、そんな気がした。
チョコは熊野に持ち帰ってきた。この包装紙、全く変わっていない。文字はロシア語。子供だったからか、ウイスキーボンボンは記憶にないけど。他の包装紙はたぶんどこかにとってあるはず。いつか探し出して、比べてみよう。
マダムは最後にこう言われた。「まあ、楽しくて、すっかりおしゃべりしてしまったわ。またお越しくださいね。今度いらした時には、わたくしは消えてしまっているかもしれませんけれど。」「いつおうかがいできるか解りませんが、お元気で」そう言って私はROZAを後にした。
私が12年間学校に通ったこの街は、すっかり様変わりしてしまった。広い庭に古い洋館、そんなお屋敷は一つもない。街路樹の銀杏だけが、シモーヌと私の冒険を知っている。
チョコはちっとも変っていなかった。ロシアが憧れの地だった時代の味なのかもしれない。
ROZAはずっとROZAのまま。
by mobiliantichi | 2010-11-03 21:44 | 食べ物